お金の基礎知識

副業20万円の壁、AI収入は「雑所得」か「事業所得」か

「副業の所得が20万円を超えたら確定申告」という話は広く知られていますが、正確に理解している人は多くありません。しかもAIを使った副業(AIライティング代行、AI画像生成物販など)には、まだ専用の税制ルールが存在しません。この記事では、国税庁の一次情報にもとづいて、実際のところどう扱われるのかを整理します。

「20万円ルール」は税金がかからないという意味ではない

給与所得者が年末調整を受けていて、副業などの所得(給与・退職所得以外)の合計が20万円以下であれば、所得税の確定申告書を提出する義務はありません(所得税法121条・122条、国税庁タックスアンサーNo.1900)。

ここで誤解されやすいのが、このルールはあくまで所得税の申告書提出義務を免除する特例だという点です。住民税には同様の「20万円以下なら申告不要」という規定はなく、副業所得が1円でもあれば、原則として住民税の申告が必要になります。確定申告をしない場合でも、市区町村に住民税の申告をする必要があるということです。申告を怠ると延滞金が発生する可能性もあります。

つまり「20万円以下だから何もしなくていい」ではなく、「所得税の申告書は出さなくていいが、住民税の手続きは別途必要」というのが正確な理解です。

雑所得か事業所得か、判断基準は「記帳の有無」と「事業としての実態」

副業の所得が20万円を超え確定申告が必要になった場合、それを「雑所得」として申告するか「事業所得」として申告するかで、税制上の扱いが大きく変わります。事業所得には青色申告特別控除(最大65万円)、他の所得との損益通算、赤字の繰越控除といった優遇があるため、区分の影響は小さくありません。

2022年10月、国税庁は所得税基本通達を改正し、事業所得と雑所得を区分する基準を明確にしました。ポイントは次の2つです。

記帳・帳簿書類を保存しているか
帳簿を付け、書類を保存していれば、事業としての継続性・企画遂行性が認められやすく、原則として事業所得として扱われます。逆に記帳がなければ、原則として事業所得とは認められません。

収入が300万円を超えているか
記帳・帳簿書類を保存している場合は、収入額にかかわらず、原則として事業所得に区分される場合が多いとされています。ただし、その所得の収入金額が例年おおむね300万円以下で、かつ主たる収入に対する割合が10%未満などの場合は、事業としての実態が乏しいとみなされ、個別の事実関係にもとづいて判断される(雑所得とされることもある)とされています。記帳がない場合は、収入金額が300万円を超え、かつ事業所得と認められる実態があるときに限り、例外的に事業所得となり得ます。

機械的に「〇〇円を超えたら事業所得」という単純な線引きではなく、「記帳の有無」「金額」「実態としての事業性(反復継続性、営利性、規模など)」を組み合わせた総合判断だという点を押さえておいてください。

AI副業だからといって特別な税制があるわけではない

ここが今回いちばん伝えたいポイントです。AIライティング代行やAI画像生成による物販について、国税庁が特別な通達やタックスアンサーを出している事実は、調査した範囲では確認できませんでした。つまり現状は、AIを使っていない副業とまったく同じ「雑所得か事業所得か」の一般ルールがそのまま適用されるということです。「AI副業は雑所得だ」「AI副業は事業所得として認められやすい」といった断定的な情報を見かけても、公式な裏付けはない点に注意してください。

一方で、経費計上については実務上の目安があります。ChatGPTやMidjourneyなどAIツールの月額利用料、作業用のパソコン・ソフト代(減価償却)、資料代、通信費などは、業務との関連性が認められれば経費にできるというのが一般的な考え方です。私的利用と業務利用が混在する場合は、按分(業務で使った割合分だけを経費にする)が必要になる点は、AI副業に限らず通常の副業経費と同じです。

確定申告が必要になったら

確定申告の期間は原則として翌年2月16日〜3月15日です。必要になるのは、本人確認書類、給与の源泉徴収票、副業の収入がわかる書類(取引明細・通帳など)、経費の領収書、各種控除証明書などです。e-Tax(オンライン申告)、税務署への郵送、窓口持参のいずれかの方法で提出できます。事業所得として青色申告を選ぶ場合は、事前に「青色申告承認申請書」の提出が必要です。

なお、令和7年度税制改正により基礎控除と給与所得控除の最低保障額が引き上げられており、令和7年分(2025年分・2026年提出分)の所得税から適用が始まっています。税制改正は毎年見直しが入るため、副業収入がある人の課税最低限にも影響することも踏まえ、申告時期が近づいたら国税庁の最新情報を確認することをおすすめします。

まとめ

20万円ルールは所得税の話であり、住民税の申告義務とは別物であること。雑所得か事業所得かは、金額の大小だけでなく記帳の有無や事業としての実態で判断されること。そしてAI副業だからといって特別な税制上の優遇や不利益があるわけではなく、既存のルールがそのまま適用されること。この3点を押さえておけば、判断に迷ったときも落ち着いて対応できるはずです。個別の判断に不安がある場合は、税理士など専門家に確認することをおすすめします。


参考
– No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人|国税庁
– 事業所得と雑所得の区分(所得税基本通達35条関係)|国税庁
– 令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について|国税庁